1.腹腔内出血 |
胃がんに対する手術は広範囲なリンパ節郭清を伴うので、術後出血がおこる可能性がゼロではありません。ほとんどのものは手術後48時間以内におこりますが。まれに、術後1週間以上たった後におこることもあります。
(治療)輸血が必要な場合が多く、出血大量の場合は、緊急で再開腹をして止血します。 |
2.消化管出血 |
おもに胃切離線もしくは吻合部にみられます。
(治療)ほとんどの場合は保存的(手術をしないで)治癒します。内視鏡的に止血をする場合もあります。 |
3.縫合不全 |
切除後再建の縫合部が破綻した状態で、ひどい場合は腹膜炎を起こします。術後4~5日から1週間前後に診断されます。
(治療)絶食、点滴、抗生物質で保存的に治療する場合が多いのですが、腹腔内の汚染がひどい場合には再手術を行うこともあります。 |
4.腹腔内膿瘍 |
お腹の中に感染した膿がたまる状態で、縫合不全による消化管内容のもれ、血液の塊、リンパ液の貯留への感染などでおこります。
(治療)小さなものは抗生剤投与などで感染を抑えていれば自然吸収されます。ある程度の大きさでは自然吸収は不可能なためドレーン挿入が必要となります。 |
5.腸管麻痺 |
長時間の麻酔、手術中の出血、全身状態などの影響で見られます。胃の切除範囲が広範なほど、またリンパ節郭清が広範なほど排ガス(おなら)があるまでの期間は長い傾向にあります。腹腔内膿瘍や出血も腸管麻痺をおこします。 |
6.術後腸閉塞
(イレウス) |
腸管のどこかに狭窄があるためにおこります。手術による癒着が原因のことが圧倒的に多いのですが、吻合部狭窄や癌性腹膜炎も原因となり得ます。
(治療)鼻からイレウス治療用の長いチューブを挿入し、たまった消化管内用を吸引して消化管の安静を保ちます。1週間以上経っても改善しない場合は、手術することもあります。 |
7.通過障害 |
最も多いのは、吻合部の一時的な腫れによるものです。吻合部が狭いためにおこることもあります。
(治療)一時的な腫れの場合は、2~3週間で腫れが引くのでそれまでは絶食もしくは流動物のみで経過を見ます。特別な治療は必要ありません。吻合部が狭い場合には医療用の風船(バルーン)を使って広げることもあります。 |
8.術後膵炎と術後膵液瘻 |
膵臓周囲のリンパ節を郭清したり、膵臓を合併切除するため、膵炎を起こしたり、強い消化液である膵液がもれることがあります。
(治療)膵炎に対しては薬物治療を行います。膵液瘻に対しては薬物治療に加えて、ドレーンによる膵液の体外排液を行います。完全治癒に長期を要する場合もありますが対外排液(ドレナージ)がきちんとできていれば更なる合併症に発展する危険は小さいものです。 |
9.術後肺炎 |
手術後は身体の抵抗力が弱まり、腹部のキズの痛みもあり痰を出す力も弱まります。痰が出し切れないとき、誤嚥したときなどに肺炎を併発します。術後肺炎は手術後の直接死亡原因として最も重要なものです。重症肺炎には気管切開をおこなうこともあります。肺炎を起こさないために、患者さんは手術前より呼吸機能訓練をし、禁煙をするよう指導しています。また、術後は・大きな深呼吸・しっかりとした痰の排出・早期離床の3点が重要です。 |
10.肺塞栓症 |
「エコノミー症候群」と新聞などで報道されているものです。術中・術後の安静時に足の静脈に血栓ができ、出来上がった血栓が肺の血管につまることで重症呼吸不全をおこします。当科では、予防のために手術中より一定期間両足にマッサージ器を装着します。これにより、肺塞栓症の発生はほとんど抑えられています。 |
11.末梢静脈炎、
カテーテル感染 |
手術後一定の絶食期間は点滴で水分や栄養の補給をします。短期間の時には腕の血管からの点滴、長期に及ぶ場合は中心静脈という太い血管に点滴のカテーテルを入れます。末梢静脈からの輸液の場合にも、中心静脈からの輸液の場合にも、異物であるカテーテルを一定期間体内に留置することになりますが、このとき皮膚常在菌などの感染で血管内に細菌感染が起こり、肺血症を引きおこすことがあります。
(治療)感染が疑わしいカテーテルの抜去。抗生剤治療、さらに重症敗血症には、重症感染に対する薬物治療や抗ショック治療などを行います。 |
12.その他 |
術後胆嚢炎、創感染などがあります。 |