疾患情報
消化器内科
炎症性腸疾患(IBD)-潰瘍性大腸炎、クローン病
炎症性腸疾患の治療方針 - 高野病院のIBD診療のシステムと各専門職の役割
1.外来診療システム
2.チーム医療
3.各専門職の役割
4.NST 活動
高野病院の外来では、下の図のような順序でIBDの患者様の2度目以降の外来診療を行っています。患者様の病状を正確に把握するため、外来担当医の診察前に諸検査の結果が出るシステムをとっています。※平成16年8月より電子カルテを導入しており、検査結果を電子カルテに瞬時に反映することができます。
受 付 |
↓ |
採 血(血液検査) |
炎症反応・白血球・白血球分画・貧血・栄養状態・ 肝機能・腎機能・膵臓機能・電解質・脂質・血糖などを調べます。
↓ |
体重・体脂肪測定・身体計測(CD) |
身長・体重・体脂肪な率・BMIを調べます。 ↓
|
検査 (事前の診察での指示がある場合のみ) |
レントゲン検査 ↓ |
診 察 |
結果が全てそろってから診察します。 腹部診察・検査結果説明・薬剤処方を行います。 ↓ |
次回予約 原則として予約制です。 |
高野病院では、各部門の医療スタッフが、患者様とご家族の方々のケアに携わっています。
特に、IBDに関わるスタッフは、医師・看護師の他に、栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーがいます。それぞれが専門性を高め、お互いに情報交換しています。
3.各専門職の役割
看護師
栄養士
薬剤師
医療ソーシャルワーカー
■看護師の役割■
責任ある看護体制
病棟には、入院患者様の入院生活に関わるスタッフとして医師・看護師・薬剤師・栄養士・医療ソーシャルワーカーなど様々な職種がおり、チームで医療ができる体制をとっています。その中で、看護部では患者様に責任を持って継続した看護を提供するために固定チームナーシング(患者様お一人お一人受け持ちの看護師が決まっており、その看護師を中心にチームでお世話をさせていただくシステム)を実践しています。
病棟看護師は3交代制の勤務態勢ですが、受け持ち看護師が夜勤や休みなどで不在の時でも、その看護師が所属するチームで責任を持って継続した看護を提供できるようにしています。また、退院後も継続して看護できる様に退院時には外来看護師に引き継いでいます。
在宅栄養療法の指導
クローン病では、寛解維持および術後再燃防止、再燃予防のため栄養療法が重要となってきます。その中には、経腸栄養法(経管栄養法または経口栄養法)があり、指導をそれぞれの職種が分担して行っています。医師より患者様へ説明がされた後、経管栄養を開始する患者様に対しては、まず、ビデオを見ていただき、経鼻チューブの挿入の手技から始めていきます。 必要物品の説明からチューブの挿入の仕方、栄養剤の調整、ポンプを使用しての注入開始などを練習し自己管理できるよう 指導を行っていますので不明な点はお尋ね下さい。
入院期間も長期間になることが多く、ストレスも多い中で、24時間一番身近にいる看護師が病棟薬剤師や栄養士など他職種ともそれぞれ情報交換しながら、患者様がすこしでも安心して入院生活が送れるよう支援していければと考えております。
■栄養士の役割■
高野病院の栄養科では、患者様お一人おひとりに合わせた食事支援、栄養管理、最新栄養情報の提供などに力を入れ、努力を重ねています。
-主に4つの活動を行っています。
クローン病は栄養の消化吸収を司る腸管に病変が生じるため、容易に低栄養状態に陥りやすく、栄養障害に対する治療も必要になります。
栄養障害の原因として
①食欲不振、食事摂取に伴う腹痛、下痢による栄養摂取量の低下
②栄養素の消化吸収能の低下
③発熱、炎症による代謝の亢進、必要エネルギーの増加
④腸管からのたんぱく漏出
⑤微量栄養素の欠乏
等が考えられています。これらの栄養障害に対してのきめ細かなケアが必要となります。
1.個々のクローン病患者様の外来診察時の身体計測・問診を行っています。
月1回外来診察前に身体計測・問診を行い、栄養状態に問題はないか確認を行っています。急激な体重減少、食欲の有無、排便状態など詳しくチェックしています。この外来時の栄養士の関与が重要で、他の施設では見られない診療システムでもあります。
その中で、日常の食の悩み、疑問点、ご自分の病状、ご自分なりの食事療法を話されたり、安心感、信頼を持ってコミュニケーションがとれる場となるよう心掛けています。どうぞお気軽にご相談ください。
2.入院IBD患者様の栄養管理に努めています。
入院中のIBDの患者様へは、1週間ごと身体計測を行い、栄養状態の評価を行います。血液検査や食事摂取量、体重・体脂肪測定など、1週間ごとのデータを照らし合わせ、摂取された栄養が治療に貢献できているかなどを評価していきます。
また、必要に応じて退院前に栄養指導を行っています。
3.IBD料理教室を年5回開催しています。
IBD料理教室を2000年から開催しています。参加者は20歳代~60歳代、男性も積極的に参加され、とてもにぎやかに開催しています。メニューも60種類程度に増え、洋食・中華・麺・ケーキなど簡単で、季節感も味わえるメニューが豊富です。料理教室はどなたでも参加できますので、お気軽にご連絡ください。
4.IBD患者会の講話及び調理実習を年1回行っています。
毎年、2~3月頃に講話と調理実習を兼ねた健康教室を開催しています。常時35~40名程度の方にご参加いただいています。患者様同士コミュニケーションが図れ、とても活発な意見交換の場になっています。
■薬剤師の役割■
1.薬が患者様に安全かつ効果的に使用されることをサポートしています。
高野病院では、院外処方の場合も薬剤師が事前に患者様の既往歴、服薬中の薬の内容、アレルギー歴、副作用歴などをチェックしています。
処方された薬に対してはカルテをみて、患者様の症状に合った薬が適量で処方されているかを薬剤師の立場で確認します。
病院と調剤薬局の連携が上手くいくよう、橋渡しとしての役割を担っています。
入院中など院内で薬をお渡しする時は、薬の名前・主な効果・用量・服用方法・主な副作用・注意すべき点などを患者様に説明しています。薬をお渡しした後も患者様が薬について正しく理解され、正しく服用されているか?あるいは患者様のお話しや状態、採血結果などから副作用が起こっていないか?薬に関連した問題がないか?など常にチェックするよう心掛けています(これは外来で処方箋だけをお渡しする場合も同じです)。
2.栄養療法のサポートも行っています。
IBDの患者様は治療上、栄養療法(輸液や経腸栄養)を実施することも多いため、その支援も行っています。
1)入院中や在宅で高カロリー輸液を行う場合、輸液は薬局の無菌室で調製しています。
この際、総カロリーや微量元素などの輸液の内容もチェックしています。
2)在宅で輸液や経腸栄養(鼻からチューブを入れて実施する場合)を行う場合には、効果や合併症などについての説明と手技の指導も必要となります。
高野病院では指導をそれぞれの職種が分担して行っています。
薬剤師は主に処方内容のチェック、ポンプやルート類などの必要物品の準備、外来でのフォロー体制の説明等を行います。
3)外来では患者様の状態を常にチェックしながら、合併症などの問題がないか、問題があるのであればその対応策をどうするかなど、各職種が気付いた時点で相談するような体制をとっています。
3.薬や栄養療法に関連した新しい情報の提供を心掛けています。
レミケードに関する効果や副作用についての調査結果も少しずつ報告されています。最近ではエレンタールの新しいフレーバーやボトルタイプも登場しました。また、セレンという微量元素が注目され始めたりと、新しい栄養の話題もあります。薬や栄養療法に関すること等、患者様にとって有用な情報はできるだけ早くお知らせするようにしています。
IBDの患者様の多くはどうしても薬や栄養療法と長く付き合って頂くことになります。副作用を心配するあまり薬を服用せず十分な治療効果が得られないことも時にあるようです。患者様に薬や栄養療法のことを理解した上で治療に参加して頂くことが重要です。私達薬剤師も患者様の状況や問題点を理解して、それぞれの患者様に合ったわかりやすいアドバイスができるように努力したいと思います。何かございましたらどうぞお気軽にご相談ください。
■医療ソーシャルワーカーの役割■
高野病院では普段‘ケースワーカー’と呼ばれていますので、「‘医療ソーシャルワーカー’って何?」と思われるかもしれませんが、一般的に私たちの職種は医療ソーシャルワーカー(略してMSW)と呼ばれています。
私たちが炎症性腸疾患(以下、IBD)の患者様とかかわる主な役割は次の3つになります。
1.社会福祉制度の利用に関するご相談や手続法のご説明です。
皆様が利用できる福祉制度の主なものは、特定疾患医療受給制度です。現在当院では約500名の方が利用されておられます。熊本県をはじめ九州各県、遠くは四国、関西、関東地区にお住まいの方もこの制度を利用して治療を継続されています。
その他の制度としては、身体障害者手帳、障害年金などがありますが、諸条件を満たした方ということになりますので、現在利用されているのは極一部の方にとどまっています。福祉制度は多種多様ですので、まずはお気軽にご相談ください。
2.日常生活で困られていることやストレスなど精神的な悩みなどに関するご相談をお受けしています。
病気であること自体が大きなストレスとなります。また、治療を受けながらの生活は、職場や学校、家庭で負担がかかる方も少なくはありません。ましてや入院生活を余儀なくされた場合、さらに負担が大きくなります。このような場合、お一人で問題を抱え込むことは、治療の効果に影響を及ぼすこともあります。
医師や看護師などそれぞれの職種がご相談にお答えしておりますが、直接治療に関係しないことでもお困りのことがありましたらどうぞご相談ください。
3.患者会のお世話をしております。
昭和58年に高野病院に患者会が発足しました。以来30年以上、システムや内容など変えながら、そして何より皆さんのご協力の下、続けることができました。
現在は年3回、潰瘍性大腸炎・クローン病の方合同の患者会を開催しております。
その開催の企画、ご案内、準備、開催、資料発送と一連の業務を担当しております。一人でも多くの方にご参加頂き、病気に対する正しい理解を深めてもらい、病気のセルフコントロールにお役立て頂ければという思いで、お世話をさせて頂いております。
以上のように直接的・間接的に皆様と関わっております。いつでもお声をかけて下さい。
最後にお願いですが、指定難病は年1回の継続手続きが必要で、毎年約500名の方の書類を短期間で整えなければなりません。どうか書類は早めに病院へご提出下さいますようお願いします。また、皆様自身が利用されている制度です。送られてきた書類には目を通して頂き、必要書類のご確認と準備をお願いします。どうかよろしくお願い申しあげます。
当院はNST稼動施設として日本栄養療法推進協議会と日本静脈経腸栄養学会より認定されております。
日本栄養療法推進協議会 | NST稼動施設認定(施設番号032358) |
日本静脈経腸栄養学会 | NST稼動施設認定(認定番号01344012) |
NSTとはNutrition Support Teamの略称で、多職種の医療スタッフで構成される「栄養療法の専門知識を持ったチーム医療のシステム」のことです。
NSTの役割・目的は、(1)栄養管理が必要か否かの判定(栄養評価の施行)、(2)適切な栄養管理が施行されているかの確認(カロリーや栄養成分の決定)、(3)最もふさわしい栄養管理法の提言(適切な栄養ルートの選択)、(4)栄養管理に伴う合併症の予防・早期発見・治療、(5)栄養管理上の疑問点に答える、(6)新しい知識・技術の紹介などです。これらのNST業務を遂行することで、患者様に適切かつ質の高い栄養管理を早期に開始することができ、これが患者様の早期回復、早期退院(入院日数の減少)、早期社会復帰につながっていきます。またスタッフのレベルアップや医療安全管理の確立、栄養に関わる素材や資材を適切に使用することによって、経費や入院費の削減にもつながります。医療の質の向上と合理化が同時に達成でき得るシステムと言えます。
当院では、以前よりIBD患者様の治療に対して各職種が関わりをもって取り組んでおりますが、2005年度よりNSTシステムを導入し活動しています。個々の患者様のトータル的なQOL支援に努めてまいりたいと考えております。ご意見、ご要望などございましたら、お気軽にスタッフまでお申し出ください。