疾患情報
肛門科
痔・肛門疾患
痔疾患Q&A
Question Q.肛門の奥の方で尾骨の所が長く座ったりすると痛むのですが。 A.座って背中のまうしろで一番下に手をあてたところにある骨が仙骨で、その先に尾骨がついています。 尾骨は動物ではしっぽの骨に相当します。この仙骨と尾骨との接合部が時に痛むことがあります。また、この接合部には、骨盤内の筋肉やスジが付着しており、これに沿っても痛みが生じることがあります。特別な骨の変形や、周囲に変化をみるということはあまりありません。 原因として、外傷・妊娠・分娩などがあげられていますが、あまりはっきりしない場合も少なくありません。硬い椅子に長く座ったり、車の運転を長時間した時、奥の方に感じる鈍痛はこれからくることが多いのです。治療法としては、長時間座っていたり、運転したりすることを避ける、鎮痛剤で筋肉の緊張をとる、骨盤内の血液循環をよくするために、入浴やホットパックなどの温罨法を試みたりします。 これでずいぶん治るのですが、どうしても頑固に痛みが続く場合は、ブロックといって局所に麻酔を注射して治したりします。 Q.肛門のまわりがかゆいのですが。 A. 肛門のまわりは湿っぽく不潔になりやすくすれやすいので、よく皮膚炎(湿疹)を起こします。症状はかゆみで、ひどくなると夜寝られないほどになりつらいものです。他に粘液や膿が出るような肛門の病気がある時は、分泌物が刺激となり炎症を生じます。 治療としては、まず局所を清潔にすることが大切ですが、ふつうの石けんはアルカリ性でよくないので、中性の薬用せっけんを使用します。薬は他の場所の皮膚炎と同じく内服薬・外用薬(軟膏)を用います。外用薬は皮膚の状態をみながら選択しますが、かぶれがそれほど強くない場合は抗ヒスタミン軟膏を、また、かぶれがひどい時はステロイドホルモン剤の含まれたものを使います。ただしこれは長期間連用すると副作用が出てくるので注意を要します。分泌物が多く湿潤しているような例は少ないので、使った感じのよいクリーム剤が、主に使われます。今まで使っていた薬が効かない場合は、かえって症状を悪くしている恐れがありますので中止します。 再発しやすいので、治療は完全に治るまで行います。粘液や膿の出る病気は、皮膚炎を治してから完全に治すようにします。 生活面では、汗が出て局所のすれやすいような仕事やスポーツはしばらく控えるようにします。また辛子・こしょう・わさびなどの刺激物の摂取も控えたほうがよいでしょう。 Q.男の赤ん坊ですが、肛門のまわりが赤くなって時々破れて膿が出て、どうしても治りません。 A. 乳児の痔瘻は圧倒的に男の子に多く、女の子に見られるのはごくまれです。 早い場合は生後間もなく、多くは1か月から数か月で発生し、肛門の周囲が赤くはれ痛がって泣きます。 乳児痔瘻の特徴としては、(1)簡単で浅い、(2)低位筋間痔瘻である、(3)いくつもできやすい、(4)肛門の左右側方にできやすい、などがあります。よくおむつかぶれと問違えやすいので注意を要します。 治療としては、まず局所を清潔にし、早目の段階では抗生物質を使用し、それでも化膿するようでしたら切開排膿を行います。その後しばらく様子を見て、どうしても自然に治らない時は手術になります。現在の手術は麻酔・外科の技術の発達により、安全かつ正確にできます。たとえば私共の病院では、全身麻酔での手術は数分で終り、3日間の入院となります。 Q.痔は注射では治らないのでしょうか。 A. 一般に痔の手術は痛いという恐怖心が強く、なんとか手術をしないで注射で治したいという人がいます。 その中の一つに硬化療法があります。5パーセントのフェノールアーモンド油などを痔核に注射し、表面を線維化させ固めてしまう方法です。これは内痔核の1~2度でとくに出血を主とするものに対して行われ、軽度の脱肛にも可能です。 方法としては、2~10ミリリットルの薬液を肛門より注射しますが、疼痛はなく、1回かせいぜい2回の治療で済みます。当日だけ激しい仕事や車の運転,入浴などを控えるだけで普通の生活ができます。副作用もなく、妊娠中でも注射はできます。 この他に腐食療法というのがありますが、これは注射によって痔核を腐らせて落とす方法で、注射後1週間位は痛みが強く仕事もできません。それにまわりの正常の部分もやられてしまったり、肛門が狭くなったりする場合もあり、あまりよい治療法とはいえません。 硬化療法もその効果が永久に続くわけではありません。半年~1年たって出血・脱出などが起きることもあります。軽度の場合再度注射も可能ですが、何度も繰り返すようであれば、根本的な治療法としてやはり手術をすることになります。 Q.痔核とは何でしょうか。イボ痔とは違いますか。 A. 肛門付近はもともと血管が豊富にある所ですが、それがだんだんふくらんできて静脈の中に血液がたまりやすくなり、それが塊状になっているのが痔核です。生まれつき痔核のできやすいタイプがあり、それが種々の原因でだんだん大きくなっていき、20~30歳で症状が現れてきます。イボ痔とは痔核を俗にいう言葉です。しかし言葉の使われ方は曖昧で、他の病気が含まれている可能性はあります。 痔核は歯状線より上方にできるものを内痔核、下方にできるものを外痔核と2つに分けることができます。内痔核は直腸粘膜下の血管の塊がふくらんだもの、外痔核は肛門のまわりの皮膚の下の血管がふくらんだものです。痔核は上直腸静脈ばかりでなく、上直腸動脈末端の小枝も含んでいて、その枝の分れ方で右前方・左後方・左側方の三か所にできます。 実際は内外痔核が合併している場合が非常に多いのです。 Q.痔核の悪化を防ぐにはどうしたらよいでしょうか。 A. 悪化の要素はいろいろあります。痔の悪化を防ぐには、逆にそういったことを避けるように努めればよいということになります。 遺伝的傾向のある人は、若い頃からとくに注意しておき、家族的な傾向のある人でしたら、食事や生活の習慣をみんなで改めるようにします。 偏食や不規則な生活などの悪い習慣は持たないようにします。 食事は刺激の少ない物・繊維の多い物・便通をよくする物・水分などを多く取るように心掛けます。生活は規則的に、特に排便は規則正しく毎朝食後に行うようにして、ゆっくりと用を足すようにします。 入浴はなるべく毎日するようにし、痔の悪い人は、温水洗浄器つきの便器を使用されると理想的です。 長時間座りっぱなしの人・立ちっぱなしの人・腰を冷やす人・長時間運転をしなければならない人など、職業として痔に悪い仕事をする人たちは時々休んで、血液循環を良くするような運動をするのは効果的です。このことは腰を冷やしたり、力の加わるような趣味を持つ人にもいえることです。 女性の場合、妊娠の時期に悪化しやすいので、食事や清潔に気をつけることはもちろんのこと、妊娠中の女性の痔を治す方法もいろいろありますので、一度受診なさるとよろしいでしょう。 Q.痔核の手術はどんな場合に受けねばならないのでしょうか。 A. 痔核は、全部が全部手術しなくてはならないというわけではありません。薬で治らなくても、凍結・硬化・結紮療法などの通院で受けられる治療もあります。しかし、つぎにあげる場合は、手術をされることが望ましいと思われます。
Q.痔瘻(じろう)と言われましたが、どういう病気でしょうか。 A. 痔瘻は肛門の近くにできる膿の管です。ただし勝手にあるわけではなく、ちゃんとしたルールをもって広がっています。その入口は、肛門と直腸との境にある波形の歯状線といわれる所の凹みの部分にあります。これを痔瘻の原発口、あるいは一次口とよびます。そこから括約筋を貫いて肛門のまわりに開口します。これが外口、あるいは二次口とよばれるものです。その間にある膿の管を瘻管といいます。原発口はもともと肛門腺の開口部で、そこが化膿して膿の管ができたのです。 痔瘻の中には、肛門のまわりに開口しないで奥の方へと進んで直腸のまわりに広がったり、直腸の中へ破れているものもあります。 Q.痔瘻はなぜ起るのですか。 A. 腸と肛門の境は、歯状線といって波型になっており、その凹みは、肛門小窩あるいはクリプトとよばれています。その奥には肛門腺という、たとえば汗を出す汗腺や脂肪を出す皮脂腺に似た腺があります。腸の中には無数の細菌が常に生存していますが、たまたまこれが運悪くクリプトから肛門腺内に入り込み、感染を起こすことがあります。これはたとえていえば、ニキビが化膿するようなものです。この化膿によって膿が大量に肛門の周りにたまります。これを肛囲膿瘍(こういのうよう)といい、ズキズキと夜も眠れないほどたいへん痛みます。また全身あるいは局所的な熱を伴います。 Q.痔瘻を薬で治すことができますか。 A. 痔瘻は肛門と直腸との境にある波状の歯状線において、直腸側から肛門側へ突出した部分(肛門小窩)に開口する肛門腺が腸内の細菌侵入により汚染を受けたもので、軽い感染の場合は肛門小窩炎となりますが、ひどい感染で化膿すれば、肛囲膿瘍あるいは直腸周囲膿瘍となります。これが破れて膿の管(瘻管)を作ったものが先に述べた痔瘻です。 薬に関しては、化膿の拡大を防ぐために抗生物質、痛みやはれを除くのに消炎鎮痛剤などを使用することになりますが、完治するまでには至らず、原則として早期に瘻管を切り開き排膿するか、少なくとも膿の入口を取り除くかしないと治りません。入院が必要になりますが、簡単なものなら外来処置でも治せます。痔瘻は、浅い場合は肛門の周囲が赤くふくれあがり、外からもそれと認めることができますが、深い場合は、外からみただけではわからないこともあります。 この場合でも、まわりを押すと、そこに強い痛みを生じるのでわかります。肛囲膿瘍は放っておきますと自然に皮膚を破って外に流れ出ますし、多くの場合は痛くてたまらないので、病院で切開排膿してもらうことになります。このようにしますと一時的に楽になりますが、これで病気が治ってしまうわけではありません。一度細菌が侵入したクリプトや肛門腺の部分は閉じてしまうことなく、永久に開いた状態になり、ここから絶えず細菌が侵入し、中で化膿して膿となって外に流れ出します。すなわち、クリプトから肛門周囲へかけての膿の管ができあがるわけです。これが痔瘻です。痔瘻は自然に治るということがないので、手術によって治さなければなりません。 Q.痔瘻で、手術しないと治らないといわれましたが。 A. 痔瘻を治すには手術に頼るしかなく、以前は痔瘻を開いたり(瘻管開放)、切り取ったり(瘻管切除)して治していました。この方法では痔瘻は治りますが、これと引き換えに括約筋という肛門を締める筋肉も切られてしまいます。軽い痔瘻は、残りの筋肉の働きで補うことができますが、複雑な痔瘻では、この括約筋がひどく切られてしまい、便やガスが漏れるようになったりします。この弊害をなくすために、最近は括約筋を切らずに痔瘻を治す方法が考案されています。現在では多くの場合、括約筋を切らずに手術されていて、これを括約筋温存術式と呼んでいます。以前の括約筋温存術式では、痔瘻が再発するケースがありましたが、現在の改良された術式では、そういうことはほとんどなくなりました。 Q.裂肛とは、どんなものをいうのでしょうか。 A. 裂肛とは、肛門にできた裂け傷のことで、俗に「きれ痔」「さけ痔」とよばれています。 肛門の表面は、肛門上皮という薄い皮膚でおおわれています。皮膚が薄いだけに裂けやすいのです。肛門は普通締まっていて、便通の時だけ広がるのですが、硬い便が通過する時浅い傷がつき、紙に少しにじむ程度の出血があります。普通この傷はすぐ治ってしまいますが、便秘症で毎日硬い便が出たり、肛門が狭かったり、何か塊ができていてそれが肛門外に出ていこうとして無理をしたりすると、繰り返し傷がつき、痛みを伴って治りにくくなります。慢性化すると肛門狭窄・肛門ポリープ・皮膚痔などを生じて症状が悪化します。 Q.裂肛が再発したと言われましたが。 A. 裂肛はよく再発するのも特徴の一つです。裂肛になる人は元来、肛門の皮膚(肛門上皮)が弱く裂けやすいので、ちょっと硬い便が出ただけでも傷が生じます。 普通の人ですとすぐ治ってしまうのですが、ここが弱い人たちは次の排便で次々に切れるということになり、裂肛がそこにできてしまうことになります。 便秘傾向の強い人は便が硬くなり、この場合はたとえ丈夫な肛門上皮でも傷がつきやすく、その上便も太めのものが出るので、いっそう切れやすくなります。 女性は、前方の組織が弱く伸びが悪いので、ちょっとしたことで切れて固定化し裂肛になります。女性は便秘の人が多いので、再発率も高くなります。仕事や家事の関係などで、どうしても規則正しく排便しにくい人もいます。 旅行の多くなる仕事についている人も、規則的に排便できない状態になりがちです。タクシーの運転手・看護師・育児中の人たちもそれらにあてはまります。 その他、肛門が狭い人、裂肛が治った後が瘢痕(はんこん)といって固い組織になった人も再発しやすいのです。この部分で肛門が締めつけられ肛門狭窄(こうもんきょうさく)となります。こうなると便通の際切れやすく、とくに瘢痕部分はもろくなっており、切れやすいのです。 また一度慢性化した裂肛は、内方に肛門ポリープ、外方にスキンタグを生じますが、肛門ポリープは排便のたびに脱出しその部分の皮膚を裂きます。スキンタグは外にあって、そこに汚物がたまりやすくなっています。これも再発しやすい傾向となります。 最近の食生活は、植物繊維の少ない、そして肛門を刺激するような食事の内容になってきており、偏食傾向も加わって便秘を起こし、裂肛を生じます。このようなことから、裂肛は現代病の一種といえそうです。 他の痔がある場合、たとえば痔核・肛門ポリープなどの腫瘤状のものが排便時に脱出し裂けて裂肛を起しやすくします。 以上のことから、裂肛を繰り返し起しやすい傾向の人は、日頃から毎日の生活に注意を払い、もし切れたらなるべく早く受診し治療に取りかかるようにしなければなりません。あまり頻繁に再発を繰り返す人は、やはり手術ということになります。 Q.裂肛を薬で治せますか。 A. 初期の裂肛は特別の治療を必要とせず、便通がスムーズにあれば自然に治るのがほんどです。しかし、便秘を何回も繰り返したり肛門が狭くなっていると、傷が硬くなり治りにくく、薬による治療が必要になります。 傷の治りを早くする薬剤(組織修復作用のあるもの)、出血があれば止血作用のある内服薬や、傷口を直接的に保護し、硬くなった皮肩を軟らかくする作用のある外用薬(座薬・軟膏)などを使用します。二次的には便秘を治すための緩下剤を併用し、食事の上でも便秘を防ぐ食生活を心掛け肛門への負担を軽くします。 裂肛がさらに進みますと、肛門ポリ一プやスキンタグ(見張りイボ)ができやすく、また肛門が狭くなったりします。そういう場合は薬では治りにくく、外来で外科的に処置します。 Q.(尿失禁)認知症による尿失禁に効く薬はあるのでしょうか A. 尿失禁にはいくつかのタイプがあり、それぞれに合った治療を選択すると改善した症例も多数あります。認知症や動作障害の程度が強くなってきた高齢者には、尿失禁の頻度も増え、機能性尿失禁になっているケースが多数見られます。この場合、治療には抗コリン剤などが多く用いられます。尿失禁が改善されれば、日常生活に、そして認知症に、少なからずよい影響を与えることになります。認知症だから、あるいは動作障害があるから尿失禁はやむをえないとあきらめないで、専門医に相談して適切な治療を行なってください。 |