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疾患情報

消化器内科

炎症性腸疾患(IBD)-潰瘍性大腸炎、クローン病

潰瘍性大腸炎(UC)に対するLCAP

白血球除去療法とは


1.白血球除去療法とは
2.白血球除去療法の種類
3.高野病院の白血球除去療法の現状


1.白血球除去療法とは

現在、軽症や軽症に近い中等症の潰瘍性大腸炎は、少量のステロイド(プレドニン、リンデロン坐剤など)やサラゾピリンまたはペンタサによりコントロールすることができます。しかし、劇症化する恐れのある中等症や重症例、再燃寛解を繰り返す場合やなかなか緩解に至らない場合(難治例)は、薬物療法のみでは治療に限界があるのが現状です。
最近、活動期の潰瘍性大腸炎の治療法として白血球除去療法が行われています。白血球除去療法は、体に悪さをしている活性化された白血球を選択的にとり除く治療です(下図)。

もともと成分輸血や赤血球だけを輸血したいときに不要な白血球が混じらないようにするために考えらえた方法ですが、この方法を慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患や炎症性腸疾患の治療として応用したものです。潰瘍性大腸炎やクローン病の炎症を起こしている腸管粘膜には、顆粒球・単球・細胞障害性Tリンパ球などの活性の高い白血球が集まっています。炎症性腸疾患ではこれらの白血球が、まちがった情報を与えられて自分の体を攻撃しているといわれています。ステロイドや免疫抑制剤などが炎症性腸疾患に対して炎症を抑える効果があるのは、このような活性化された白血球が反応する最初のところに作用し、炎症を抑制しているからと考えられています。

白血球除去の方法には、後で述べる3つの方法あり、人工透析のような体外循環の方法によって治療を行います。1回の治療時間は除去方法の違いから約60分で、具体的には肘静脈(ひじ)か大腿静脈(太もも)から血液を抜き、反対の静脈へ戻します。
白血球の活性状態の違いから活性化された白血球だけを取り除き、炎症にかかわっていない活性化されていない(おとなしくて悪さをしない)白血球はそのまま体に残ります。治療後一時的に白血球の数は減少しますが、正常な白血球は体の中に十分に残っており、翌日には正常な数まで戻ってきます。
したがって、この治療を週に1回程度繰り返しても白血球が少なくなるようなことはありません。また、ステロイドや免疫抑制剤のように活性化された白血球の活性を沈静化さる方法ではなく、直接とり除いてしまう治療なので、薬剤による副作用の心配がなく、治療を進めるにつれてむしろステロイドなどの薬剤を減量できることが期待されます。
炎症状態が続いている活動期には週1回の治療を連続5回(1クール)行い、その後、下痢、出血などの臨床症状、炎症反応、内視鏡所見などからさらに5回(2クール)行うかを決めます。

寛解導入の効果は、おおよそ潰瘍性大腸炎では60~80%、クローン病では40~50%と報告されています。
また、発症からの期間が短い例、炎症反応の強い例は効きやすく、再燃と寛解を繰り返すことで腸管が線維化をおこしてかたくなってしまった状態や潰瘍が深い場合や炎症性ポリープが多発した状態(偽ポリポーシス)では治療効果が低いように思われます。
クローン病の肛門部病変や、腸管の狭窄には改善がみられないこともわかっています。


2.白血球除去療法の種類
 
現在、白血球系細胞除去療法は、主に以下の3種類の方法が潰瘍性大腸炎に対して行われております。方法によって除去される細胞の種類も異なり、今後その治療法の効率・利点・欠点等を考え、主治医と患者さんがいずれかの方法を選択することになると思われます。
 

(1)酢酸セルロースビーズを用いた顆粒球吸着・除去療法 GMA(GCAP) 【図2】

ヘパリンで抗凝固化した全血液を、毎分約30mlのスピードで酢酸セルロースのビーズを充満した顆粒球除去カラム(アダカラム)の中へ通し、カラムの前後で50±10%の顆粒球と単球を除去します。1×109個の目標顆粒球除去に必要な治療時間は約1時間です。
多施設共同治療研究無作為割付試験で行われた緩解導入療法、(活動期療法)の有効率(改善以上)は、GCAP群58%で、対照のプレドニン群(ステロイド多量療法)の46%と比べ有意に高いことが示されました。
(図2)

 

(2)ポリエステル繊維を用いた白血球除去療法(LCAP)【図3】

白血球が3μm以下の極細繊維に引っ付く性質を利用したのが白血球除去療法です。フサンで抗凝固化した全血液を、毎分約50mlのスピードで、ポリエステル繊維を充満した白血球除去器(セルソーバ)の中へ通し、顆粒球・単球をほぼ100%、リンパ球を50±10%除去します。1×1010個の白血球除去に必要な治療時間は約1時間です。
多施設共同治療研究無作為割付試験で行われた寛解導入療法(活動期療法)の有効率(改善以上)は、LCAP群74%で、対照のプレドニン群(ステロイド多量療法)の38%と比べ有意に高いことが示されました。
(図3)

 

(3)遠心分離を用いる白血球系細胞除去療法

遠心分離法により比重の違いで外層より赤血球層、白血球主にリンパ球層、血小板層、血漿層に分離し目的とする細胞群または血漿を除去する方法です。遠心法で多核白血球除去を含めた白血球除去療法を施行する場合、多核白血球(顆粒球)は赤血球層に埋没しており、赤血球が同時除去され、すでに貧血のある患者さんの貧血悪化の原因となります。
いくつかの施設では施行されていますが、有効率(改善以上)は73%(33/45)と報告(ただし、ステロイド多量療法と比較されていない)されています。つまり、遠心法による貧血の副作用を克服できれば、他の白血球系細胞除去療法と同等の効果を期待できます。


3.白血球除去療法の治療症例


【症例】
内視鏡検査で直腸に発赤を認め、生検の結果、潰瘍性大腸炎と診断。
頻回(6回/日以上)の下痢、下血が出現したため入院し、プレドニンとサラゾピリンの内服を開始した。
しかし、改善傾向みられずGCAPを行った。2回目の治療後から症状は改善し、5回終了後には寛解状態となった。

GCAP治療前

 

 

GCAP3回終了後

 

GCAP5回終了後