公式SNSアカウント

  • Line
  • facebook
  • youtube


疾患情報

消化器内科

炎症性腸疾患(IBD)-潰瘍性大腸炎、クローン病

IBDの栄養療法
IBD(潰瘍性大腸炎・クローン病)情報

炎症性腸疾患の食事管理は低残渣・低脂肪が基本です。しかし、実際には長期間にわたる食事療法のため、制限に対するストレスを抱え、食事でお悩みの方も多いのではないかと思います。特にクローン病は、口腔から肛門までのあらゆる部位に起こり、病変部位が複雑で、また小腸に病変が生じると栄養障害が生じるため、栄養療法が重要視されていますので栄養管理が大変になってきます。それを踏まえ、当栄養科では、色々な食事情報を提供し、皆様方のQOL向上への継続的フォローアップに貢献したいと考えております。

 

クローン病における栄養障害

 

クローン病は栄養の消化吸収を司る腸管に病変が生じるため、容易に低栄養状態に陥りやすく栄養障害に対する治療も必要になります。栄養障害の原因として、
①食思不振、食事摂取に伴う腹痛、下痢による栄養摂取量の低下
②栄養素の消化吸収能の低下
③発熱、炎症による代謝の亢進、必要エネルギーの増加
④腸管からのたんぱく漏出
⑤微量栄養素の欠乏
等が考えられています。


食事療法について

クローン病の食事療法は高カロリー・低脂肪食・低残渣食、また潰瘍性大腸炎においては適正カロリー・低脂肪食・低残渣食が基本とされています。また食事療法を行う上で、個々の患者さんにおいて、病変の部位や消化吸収機能が異なり、下痢、腹痛などを誘発する食品もさまざまです。ご自分に合った献立・調理の方法を把握することが重要です。

1)高エネルギー
2)低脂肪
3)低残渣
4)タンパク質
5)乳酸菌
6)オリゴ糖
7)カルシウム
8)鉄
9)その他栄養素について


1)高エネルギー

○ クローン病の方の場合 ○

発熱等の症状や、腸管の炎症、潰瘍、びらんの修復のために必要エネルギーは増加します。クローン病の方の場合は特に高エネルギーを維持するうえでは、食事のみで維持しようとすると、腸に負担がかかりすぎるため、成分栄養剤を併用して行うことをお勧めします。

  35~40 kcal × (標準体重)kg / 日

     例)標準体重60kgの人の場合

    (35~40)kcal×60 kg=(2100~2400) kcal  ・・・ 必要エネルギー

 

○ 潰瘍性大腸炎の方の場合 ○

 

  30~35 kcal × (標準体重)kg / 日

    例)標準体重60kgの人の場合

    (30~35)kcal×60 kg=(1800~2100) kcal  ・・・ 必要エネルギー


*標準体重は下記の式より求められます。
    BMI=22     標準体重=22×身長(m)2
    (身長160㎝の場合  22×1.6×1.6= 56.3kg ・・・ 標準体重 )

ページトップへ


2)低脂肪

脂肪は腸管の蠕動運動を刺激し、また、脂肪の消化吸収に必要な胆汁酸が腸管に刺激を与え、下痢や腹痛の原因となり易いため、制限が必要です。脂肪の多い食品、油脂類を減らし、また、炎症を悪化させるn-6系脂肪酸や飽和脂肪酸を控え、炎症を抑えるn-3系脂肪酸を積極的に摂るようにします。脂質は1日あたり30~40gが目安です。食品中にも含まれるため、1日の食品構成表を参照に、肉や脂肪の多い食品の摂り過ぎに注意しましょう。

【脂肪酸について】
脂肪酸は脂質の主な構成成分で、炭素、水素、酸素からできていますが、構造の違いにより、体内でのはたらきなどが違ってきます。脂肪酸の分類について表にまとめています。



食品には各種の脂肪酸がそれぞれ異なった割合で含まれおり、牛や豚など動物の脂肪には飽和脂肪酸が、魚の脂肪にはn-3系列の多価不飽和脂肪酸が多く含まれます。主に多く含まれ食品として下記のとおりです。

○飽和脂肪酸:豚脂(ラード)、牛脂(ヘッド)、バター、牛脂身、豚脂身、綿実油
○n-6系脂肪酸:サフラワー(紅花)油、綿実油、大豆油、コーン油、マーガリン、ごま油、種実類
○n-3系脂肪酸:しそ油、えごま油、菜種油、魚介類(n-6:n-3 =4:1以上)

【脂肪摂取のポイント】
① 油の総摂取量を減らす。
・1日のサラダ油などの使用は小さじ2杯までが目安
② 動物性脂肪(飽和・一価不飽和脂肪酸)、リノール酸系の脂肪摂取を減らす。
・肉類は脂肪の少ない部位を選ぶ。(肉の部位別脂肪含量の比較表参照)
・バター、ラードなどの使用は控える。
・リノール酸系の多い食用油、マヨネーズ、ドレッシング類の使用は控える。

[ 肉の部位別脂肪含量の比較 ]

 

種類 部位 脂質
(100g中)
種類 部位 脂質
(100g中)
種類 部位 脂質
(100g中)
鶏肉 ・手羽
むね肉

・皮つき
・皮なし

もも肉
・皮つき
・皮なし

・ささ身
10.4g

17.2g
1.9g

19.1g
4.8g


1.1g

豚肉
・ばら肉

もも肉
・脂身つき
・脂身なし

肩ロース
・脂身つき
・脂身なし

ヒレ肉
34.6g

10.2g
6.0g

19.2g
16.0g


1.9g
牛肉 ・ばら肉

もも肉
・脂身つき
・脂身なし

肩ロース
・脂身つき
・脂身なし

ヒレ肉
50.0g

17.5g
10.7g

37.4g
26.1g


15.0g

 

③ EPA、DHA などのn-3系の脂肪酸を多く含む魚を積極的に摂取するようにする。

EPA はまち、まいわし、ほんまぐろ、さば、まだい、ぶり、さんま、さけ、さわら
DHA

ほんまぐろ、まだい、ぶり、さば、はまち、さんま、さわら、まいわし、さわら

④ n-3系の脂肪酸を多く含む、しそ油、えごま油を使用する。

ページトップへ


3)低残渣 (*食物繊維を控える → 1日あたり10~12g程度)

食物繊維には、水に溶けるタイプの繊維(水溶性の食物繊維)と、溶けないタイプの繊維(不溶性の食物繊維)があります。
不溶性の食物繊維は腸管を刺激し炎症悪化の原因となるため摂取量を控え目にします。腸管に狭窄や過去にイレウスの経験のある方などは、野菜の摂取は出来るだけ繊維を短く、またミキサーにかけるか、裏ごしする等の調理の工夫が必要です。食物繊維の中でも、特に硬い素材のもの(レンコン、たけのこ、ごぼう、山菜、もやしなど)や、海藻類、きのこ類などもできるだけ控えたほうがよいでしょう。緑黄色野菜の南瓜、人参、ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、トマトなどは、皮、種、硬い茎などは省いたものを調理し、消化のよい形で摂取するよう心がけましょう。野菜不足=ビタミン不足になるため、野菜は毎日摂取することが大切です!
また、水溶性の食物繊維は、便を有形化し下痢を抑える働きがあり、特にペクチン※を多く含む果物であるリンゴ、バナナ、桃などは腸によい働きをもたらします。

ペクチン:
水溶性の食物繊維で、果物の中でもリンゴ、バナナ、桃に多く含まれている。
腸のエネルギーとなる短鎖脂肪酸を産生し、腸粘膜を修復するという効果が期待される。
また、ペクチンは便中の過量な水分を吸収し胆汁酸を吸着する作用があり、下痢を改善するという報告もある。

 

ページトップへ

 


4)タンパク質

タンパク質については食事性抗原として炎症の発現や増強に関与している n-6系脂肪酸を多く含む肉類などを控えます。
また、腸管病変部の炎症を抑える作用を有する n-3系脂肪酸を多く含む青魚を中心に摂取します。

ページトップへ


5)乳酸菌

炎症性腸疾患に対し、乳酸菌、ビフィズス菌などのプロバイオティクスを用い、腸内細菌をターゲットとした治療も報告されています。乳酸菌とは、糖質にはたらきかけて乳酸をつくる細菌の総称で、乳酸菌の種類は多く、ビフィズス菌などもそのひとつです。ビフィズス菌には乳酸と酢酸を産生して腸のはたらきを活発にするはたらきや、ビタミンB群、ビタミンKを合成し、貧血予防や、肌荒れ防止などに有効とされています。

【乳酸菌の作用】
・有害菌の繁殖を抑え、有用菌を増殖させ、腸内環境を整える。
・腸のはたらきを活性化し消化・吸収を促し、便通をよくする。
・ビタミン(B1,B2 ,葉酸など)を合成する。
・カルシウムの利用効率をよくする。
・免疫能力を高め、抗ガン作用を強める。

ページトップへ


6)オリゴ糖 (*ビフィズス菌増殖因子として注目されている。)

ビフィズス菌を増やすはたらきがあります。ヨーグルト類とともに摂取すると特に効果があります。
しかし摂りすぎるたり、体質・体調によりおなかがゆるくなることがあり、注意が必要です。

                                               

ページトップへ


 

7)カルシウム

 

クローン病においては、カルシウム やビタミンDの吸収が低下し不足しがちです。

カルシウムを多く含む食品:低脂肪のスキムミルク、ローファット牛乳(個人差あり)、乳製品、小魚、大豆製品、藻類(*乳製品の吸収率が一番高い)

○ カルシウムの吸収を促進させるビタミンD 

ビタミンDを多く含む食品:いわし、かつお、あじ、鮭

○ カルシウムの吸収を抑制するリン(P) 

リンが血液中に増えると骨に蓄積されているカルシウムを引き出してしまう働きがあります。

リンを多く含む食品:インスタント食品、清涼飲料水、食品添加物(変色防止剤、鮮度保持剤、風味改良剤として使用されている。)

ページトップへ


8)鉄

クローン病では、鉄の摂取不足と吸収不良、あるいは腸管からの持続性出血により貧血がおこりがちです。鉄には種類があり、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は吸収率5%で、赤身の肉や魚に含まれるヘム鉄は、23~35%と吸収率がよく、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は、ビタミンCがあると吸収率が高まります。鉄の吸収を阻害するものに、食物繊維、カルシウム、お茶に含まれるタンニンなどがあり、欠乏すると頭痛、めまい、耳鳴り、頻脈、倦怠感、顔面蒼白がおこります。鉄の1日の必要量は10mg。(鉄欠乏の場合:男性12~15mg/日、女性15~20mg/日)

鉄を多く含む食品:レバー、高野豆腐、小松菜、牡蠣など

*レバーはその動物の解毒器官でもあるので飼料などに含まれている抗生物質、ホルモン剤などの薬物残留の問題があるため、レバーを料理する際には流水で30分程度血抜きし、一度下ゆでしてから調理します。
*吸収のよいヘムを含む機能性食品を利用するのも良いでしょう。
鉄ふりかけ(1袋0.7mg)、鉄キャンディー(1粒0.9mg)、サプリメント


ページトップへ

9)その他栄養素について

【ビタミンA】
ビタミンAには、皮膚と粘膜を健康に保つ働きがあり、またガン抑制効果、成長促進作用、夜盲症、視力低下を防ぐ働きがあります。不足すると、上皮細胞の粘膜が乾燥してかたくなり、傷つきやすくなります。また、目は潤いがなくなり、肌のかさつき、消化器が損なわれれば下痢をする、呼吸器に細菌やウイルスが侵入しやすくなり、かぜをひきやすくなります。
多く含む食品 レバー、プロセスチーズ、卵黄、小松菜、人参、春菊、マンゴー、ほうれん草、大根葉、チンゲンサイ、南瓜など

 

【ビタミンC】
細胞の結合組織であるコラーゲンの合成にはたらき、血管や皮膚、粘膜、骨を強くする働きがあります。抗酸化作用、抗ガン作用、抗ウイルス作用、解毒作用などや血中コレステロールを下げる、鉄や銅の吸収を助ける、ヘモグロビンの合成を助けるなど色々な働きがあります。
多く含む食品 ブロッコリー、オレンジ、小松菜、ほうれん草、南瓜、キャベツ、マンゴー、レモン

 

 

【ビタミンE】
過酸化脂質を分解し、細胞膜、生体膜を活性酸素から守り、心疾患や脳梗塞、ガンを予防します。また、血行をよくする働きや、ビタミンA・C、セレンの酸化を防ぐなど、一般的には若返りのビタミンとも呼ばれています。
多く含む食品 南瓜、アボカド、さんま、菜種油、いわし、小麦胚芽、ほうれん草、マーガリン、オリーブ油など

 

 

【ビタミンB12】
ビタミンB12は赤血球を形成し、貧血を防ぐ働きがあります。炎症がある場合、腸管内に増殖した細菌によりビタミンB12が消費され欠乏します。また、ビタミンB12は回盲末端部より吸収されるため、その部位に病変がある場合や切除されていると、吸収されず、欠乏します。
多く含む食品 牡蠣、レバー、いわし、さば、さんま、鮭など
1日の必要量 1.5~5μg

 

 

【葉酸】
葉酸は、ビタミンB12同様赤血球を形成し、貧血を防ぐ働きがあります。また、タンパク質合成にはたらき、体の細胞分裂、発育を促します。たとえば、腸管粘膜は細胞の入れ替わりが早いので、葉酸が不足すると潰瘍になりやすく、口や舌なども不足の影響がいち早く出るところなので、口内炎になり易いです。葉酸は野菜などに含まれますが、野菜の摂取不足や薬物(サラゾピリン)により吸収障害が生じ欠乏します。
多く含む食品 レバー、牛肉、豚肉、ほうれん草、キャベツ、人参、トマト、小松菜、じゃがいもなど
1日の必要量 200~400μg *妊娠中、授乳中は2倍くらい必要。

 

 

【亜鉛】
亜鉛はたんぱく合成に重要です。また、発育促進、傷の回復を早め、味覚を正常に保ちます。偏った食事をしていると不足しがちで、亜鉛が不足すると、細胞分裂がはかどらず、子供では発育遅延、また、肌のかさつき、傷の治りが遅くなります。味覚障害や、新陳代謝が活発な器官ほど影響をうけ、脱毛、爪の白い斑点、胃腸障害もみられます。クローン病では、不足すると創傷治癒が遅延すると言われています。
多く含む食品 牡蠣、いわし、高野豆腐、蟹、レバー、帆立貝、さんま、納豆など
1日の必要量 男性 15mg、女性 12mg

 

 

【セレン】
過酸化脂質などの過酸化物の分解にはたらく酵素の必須成分で、体の組織の老化を遅らせます。また、抗体産生を促し、免疫機能を高める働きがあります。クローン病の栄養療法を行う上では、成分栄養剤・中心静脈栄養剤にはほとんど含まれていないため、長期にわたると欠乏します。欠乏すると、白内障、抜け毛、筋力低下、心筋症、不整脈、動脈硬化などが起こります。
多く含む食品 煮干、わかさぎ、さわら、かれい、帆立貝、ねぎ、牡蠣、たら、牛肉など
1日の必要量 男性 55μg、女性 45μg

 


参考文献

「炎症性腸疾患ケアマニュアル」
高添正和、前川厚子:医学書院P153-166,1997

「『ビジュアル臨床栄養百科』第5巻【疾患別の臨床栄養Ⅰ―内科(1)】炎症性腸疾患」
高添正和、斉藤恵子:小学館P30-37,1996